ある周波数だけの信号を得て、その周波数帯以外の信号は通さない回路がバンドパスフィルタ(BPF)ですが、そのような回路の研究も行っています。BPFの技術分野では結合行列を使った高度な設計技術が国内外で活発に研究されています。結合行列はBPFの高精度な設計技術に不可欠になってきていますが、設計理論を読み解いていくと他の回路への展開可能性があったり、新奇機能を引き出す設計ができる可能性を含んでおり、面白い分野です。研究室でもBPFや結合行列に関する研究を行っております。
出典:梅本 悠河, "飛越結合の影響及び共振周波数のずれを考慮したマイクロストリップ線路型BPFの高精度設計法に関する研究," 電気通信大学大学院 修士論文, March 2022.
近年の無線通信技術は高速、大容量化が進み、通信信号の高速、大容量化は限りある周波数資源において、設定された周波数帯域をフルに使用することが求められます。BPFは共振器で構成され、同じ形の共振器を複数用いると、PCBを用いた場合にBPFの周波数特性は通過特性の端部で通過特性|S21|が丸くなり、通過特性の平坦性が悪化します。平坦性が悪くなると、通過帯域の両端はカードバンドとして直接通信に寄与しない周波数帯となってしまいます。BPFの通過域の平坦性を改善するために本研究ではチップ抵抗を装荷し、共振器の抵抗成分を敢えて大きくする新たな共振器構造を提案し、その共振器とオープンループ共振器を用いることで通過特性の平坦性を改善しました。また、通常のBPFでは共振器を一方向に並べることでBPFを構成しますが、Low QuとHigh Quのパスを作り、それぞれのパスに2段BPFを位相調整した給電線で接続することで4段BPFを構成しています。結合行列を駆使することで実現できた構成であり、回路構成、回路構造ともにユニークな回路を構成することができました。
BPFは共振器で構成されますが、その共振器の損失成分の影響が大きいとBPFを設計した際に通過域の損失が高くなるだけでなく、阻止域の遮断特性も緩やかになります。 その状態でLNAを前段または後段に接続すると左下のように通過域も遮断域も丸みを帯びた特性となります。これを解決するために平坦な通過帯域を有するBPFを用いることで解決できます。市販のLNAで平坦な通過帯域を有するBPFに合うローノイズアンプ(LNA)がなかったため、 回路設計からボード設計/試作、部品実装までを自作した回路を使用しました。石川先生の研究室のアンプ測定系をお借りして性能を評価した結果、平坦な通過帯域を有するBPFの特徴である"角(かく)"形の通過特性をそのまま増幅するような周波数特性となり、 Noise Figure(NF)は1.99 dBとなりました。今までのフィルタ設計技術を駆使することで,LNAと平坦な通過帯域を有するBPFの融合設計が可能であり,今後、設計手法から構造設計までを実現する予定です。